修行

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今は結婚式を終えた後の立食パーティーの最中。新郎新婦の許に集まる貴族たちと国王に媚を売る貴族たちで溢れている。もちろん新郎新婦とは面識が無く、媚を売るつもりのない師弟はただ飯を食らっている。そこで突然王から皆へ声が掛けられる。 「皆の者、聴いてくれ。この度の私の妹の結婚式に使われた剣を覚えているだろうか?あの剣を打ってくれた者…は腰痛で来られなかったので、その妻と弟子が来ている。皆にも紹介したい。」 この声が聞こえ、慌てて口に含んでいたパスタを呑みこもうとするケイト。喉に詰まり、胸の辺りを激しく叩いている。アンは呑んでいた葡萄酒のグラスをテーブルに置く。彼女は落ち着いているようだ。 「今、片手を軽く上げている女性が鍛冶師カグルの妻であり、研ぎ師のアン・マクスウェル。そして黒い服で胸を叩いている若者が弟子であるケイトだ。」 笑いが起きる会場。漸くパスタを呑みこんだケイトは赤面し、アンは呆れている。王が紹介したこともあり、人の波に飲み込まれる二人。質問攻めにされ、くしゃくしゃとなり果てたケイトが貴族たちから解放されたのは、王の紹介から三十分程後のことだった。 「…師匠、風に当たってきます。」 「人込みに酔ったんだろう。しばらく行ってきな。誰も気付かんだろうさ。」 アンの言葉通り貴族たちは、先程と同じように王と新郎新婦に群がっている。権力と言う名の食料に群がる蟻の大群のようだ。 パーティー会場を抜け出し、大きく息を吸い込むケイト。ついでに会場となっている貴族の邸宅を散策することにしたようで、辺りを見回しながら歩きまわっている。
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