修行

33/50

8733人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
今日のパーティーはかなり多くの貴族が参列しており、出入りが非常に激しい。式場での儀礼では招待状を確認していたが、今は確認されていない。一応門番はいるが、飲んだくれている。仕事しろ。 貴族の邸宅を散策していたケイトは月明かりに照らされた庭に入る。庭には大小さまざまな木や色とりどりの花が植えられている。しっかりと手入れされている辺り、庭師のこだわりを感じる。円形に赤い花が植えられており、その中央にはベンチ。 「ゎ…。」 ベンチには先客がいた。低い場所で縛られた黒く長い髪の毛。少し動くたびに月明かりに照らされた髪が、まるで墨の川が流れているかのようにキラキラと光る。淡い青のドレスを身に纏い、足元はドレスに合わせた青のヒールだ。 「…!」 振り返り驚いたような表情を浮かべているのは少女。ケイトはここで漸く自分の口から声が漏れたことに気付いた。少女はケイトの声に反応して振りかえったのだ。自分の声に気付けないほどにまで美しい光景であった。 「…あ、えっと。は、はじめまして…。」 ぎこちない礼。しかし、頭を上げたケイトはすぐに首を傾げた。 「…はじめまして?」 「…いえ、私に訊かれても。」 二人揃って首を傾げているという良く分からない構図が完成した。ケイトはこの少女に見覚えがあった。故に疑問を抱いた。 「…あ、二年くらい前、この街にいました?」 随分と前の話を引っ張りだしてきたものだ。ケイトが見た覚えがあったのは、包丁を届けに行った日に見た誰かの後ろ姿。それが彼女と重なったのだ。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8733人が本棚に入れています
本棚に追加