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「ぼさっとしない!」
「きゃ!」
ケイトにいきなり手を引かれ、短い悲鳴を上げるミラ。赤い花の花壇を飛び越えて走る。殴られた男は意識が飛んで白目を剥き、半分開かれた双眸は天を向いている。赤い花に囲まれて若干メルヘンチックだ。もう一人の暴漢は怯んだものの、すぐに相方の刃物を持ち、二人を追いかけ始めた。片や少女の手を引きながら走る少年。片や憤慨しながら少年と少女に迫る大人。しかも少女はドレスにヒール。距離が縮まるのにそれほど時間はいらなかった。
「待てガキィ!」
「待たない!」
庭から廊下まで走ったが、パーティー会場はもう少し先。運悪く警備の兵士もいない。もう追いつかれる。後ろを振り返って男との距離を確認したケイトはミラを背に隠して男と対峙する。三人とも肩で呼吸をし、男は刃をケイトに向ける。ミラは恐怖でケイトの背中に張り付いている。刃を向けられたケイトは真剣な表情だ。
「相棒を殴った罪だ。覚悟しやがれ!」
双刃がケイトに襲いかかる。ミラを庇いながら避けているが、ケイトは戦闘初心者だ。しかし、男も初心者のようで振りがかなり大きい。それでもこのままではジリ貧である。
「こんなことなら、ちゃんと練習しておけばよかった…!」
「今さら後悔したって遅いんだよ!」
男はケイトが剣術について後悔していると思っているのだろう。多少の心得があれば素人の剣の見切りくらいならできそうだ。しかし、彼が後悔していることは他の事柄である。男が刃物を真横に振り、もう一方を続けて縦に振り降ろした。ケイトは辛うじて避け、右手を前に突き出す。
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