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「火傷させたらごめんなさい!」
「あっち!?」
ケイトの声と同時に、握りこぶし大の火の玉が掌の辺りから飛び出し、男の顔めがけて火の玉が飛ぶ。魔法を真面目に練習したことがなかったケイトにとって、現状での魔法は火の玉が限界だ。男は慌てて首を傾げ、火の玉を躱すが髪の毛の一部が焦げて嫌な臭いを発する。怯んだ男からまた逃げる二人。といよりも、先程からミラがケイトに引っ張られている。
「てめぇ、魔法使えたのかよ!」
男の叫びなんて無視だ。
「無視かよ、クソガキィ!」
ケイトは男の声に反応して、横目で後ろを確認する。無視され、さらに頭に血の昇った男は二本あるうち、利き手に持つ方の刃物を二人に向かって投げる。投げられた刃物は回転しながらミラの背中に向かって飛ぶ。頭で考えるよりも早く、ケイトは行動に出ていた。
ミラを胸に抱き込み、迫る凶刃に背を向けながら避けようと屈む。目と顔は刃と男を見たまま。しかし、避ける時間は無い。もう刃は目の前まで迫っている。このままではケイトの額に当たるだろう。首を曲げてなんとか避けようとする。
「グッ!」
ガッと音を起ててケイトの左の眉から左目の目尻にかけて赤い線が走った。線からは線と同じ色の水が流れ、廊下に零れていく。幸いだったのは、刃の力が大きく加わる切っ先が当たったのではなく、刃の根元がケイトに当たり、柄がブレーキとなったようだ。
「え…?」
今まで混乱して声も出ていなかったミラが、赤く濡れている廊下を見て声を漏らした。手と顔、ドレスが僅かに赤く染まっている。切り傷が出来た際に付いてしまったようだ。
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