修行

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「ただいま戻りました。」 ケイトの声がいつもの家に響く。アンは馬車に揺られていて凝り固まった関節を伸ばしているところだ。いつもは何らかの反応が見られるはずなのに、家の奥からは何の反応も戻ってこない。もう遅い時間である。寝てしまったのかもしれない。そう思いながら師の許へと行こうとするケイト。しかし、そのケイトを止めるアン。 「あんたは今日、大怪我しただろう。さっさと寝ちまいな。」 そう言われ、渋々与えられた部屋へと向かうケイト。何かが胸に引っ掛かる。そんな思いを胸に抱いているが、今日は彼にとって非常にハードな一日であった。何か引っ掛かるものはあるものの、疲れている体は彼の心中に反して惰眠を貪ろうと奮闘し、ケイトが寝床に入ってから数分で彼の意識をもぎ取った。 いつもならば、一日の修業を反復しながら寝る。夢だって見る。時々悪夢を見る。しかし、今日だけは何かを考える暇も無く彼は眠ってしまった。覚えたのは違和感だけ。そして、深すぎるその眠りは、彼が夢を見て眠ることすら許さなかった。 翌日のケイトは疲れていたせいもあり、随分と遅い起床となった。日はとっくに昇り、温かな日差しが彼に降り注ぐ。しかし、目が覚めて明らかな違和感を覚えた彼は、同時に不安を覚えた。いつもならば完全に寝坊の時間帯。なぜ師の足の裏が降ってこないのか?そう言えば、昨夜帰ってきた際に、師からの返事が聞こえなかった。思考を巡らせていると、ノックも無しに部屋の戸が開き、アンが顔を覗かせた。 「ケイト、爺さんのことだ。手伝っとくれ。」 その言葉を聴いたケイトの心臓は早鐘のように鳴っている。
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