修行

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降りしきる雨。まだ昼間の時間帯だと言うのに外は暗く、その景色は窓から外を見る、目の上に傷跡がある少年の心をそのまま映すかのよう。この街にある一軒の鍛冶屋に、多くの人が集う。それほど広くない家の中には人、人、人。泣いている人間も多々ある。 カグル・マクスウェルが死んだ。 その知らせは街中を、一夜にして走り抜けた。弔問客はまだ増えている。街の人間もまだ来ているし、街の外からも続々と集まってくる。彼と親交の深かったもの。少ないながらも身なりの綺麗な者だっている。おそらく貴族だろう。 しかし、窓の外を見ている少年にとってはどうでもいいこと。感じるのはとてつもなく大きな喪失感。そして気付く。自分が死んだ時は家族がこの思いを味わったのだと。前世から数えても彼にとって初めての葬儀。勝手なんてわからないし、ここは元いた世界でもない。考えることを放棄した彼はただただ外を見ている。 「ケイト。」 もう一人の師。死んだ師の伴侶であったアンに声を掛けられて振り返るケイト。あれだけ集まっていた弔問客はもういない。日が沈んでからかなり時間が過ぎていたことに気付く。 「爺さんに挨拶してきな。」 そう言うと、廊下の奥へと消えていってしまった。ケイトはアンに言われた通り、カグルの眠る部屋へと歩を進める。着いたのは彼の寝室だ。そこには寝かされているカグルの亡きがらがある。 カグルを前に正座するケイト。 「師匠。」 当然のことながら返事が無い。 「師匠。」 少し体を前に出し、もう一度声を掛けても結果は変わらない。パタ、と何かが膝に当たり、音を起てた。涙が溢れていた。
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