修行

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「そうかい。土地だったら、王都の近くの農村地帯が良いと思うよ。お前がこれからも成長するなら、名前も売れて客が来るだろう。そうすりゃ田舎でも大丈夫さ。なぁに、お前なら上手くやれるさ。なんたって、あたしと爺さんの弟子だ。 それからね、もう一つ。あたしからお前に渡すものがある。本当は爺さんと二人で渡したかったが、もう無理だ。あたしにも時間なんて残されていないしね。」 「渡す物ですか?」 目の端に涙を溜めたまま、師の顔を伺うケイト。彼には思い当たるものが無いようだ。そんなケイトの気配を感じ取ったのか、アンは短く笑ってから言葉を紡ぐ。 「別に手で渡すようなものじゃない。が、お前にとっては必要なものだと思うよ。 ケイト、お前の名前は今から、ケイト・マクスウェルだ。忘れるんじゃないよ。」 そう言って目を閉じ、寝息をたて始めたアン。師と同じ名字を名乗る。これは師に認められたということ。そう受け取ったケイトは深々と頭を下げる。 「ありがとうございます。一生忘れません。一生守り続けます。」 震える声で感謝の言葉を述べる。頭を上げ、自分の部屋へと引き上げていくケイト。 カグルが死んでからおよそ一年。名字という贈り物がケイトに贈られた翌日からアンの病状は悪化し、数日後に目を閉じたまま寝息をたてなくなった。しかし、彼女の表情は病に侵されていたとは感じられないほど穏やかなものであった。ケイトは後ろ盾と一緒に、この世界での親を失ったのだ。
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