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アンの葬儀から一ヶ月と九日が過ぎた日。この日ケイトは王都近郊の農村地帯にいた。王都近郊と言っても、王都のすぐ近くから続く森を一つ抜けなくてはならず、馬も使えないため、王都へは徒歩で数時間かかる。また、この辺りは牧畜よりも農耕が豊かで、家畜はいない。そんな村の外れに立つ二人の男。彼らの足下には木の杭が数本。男の片方はケイトだ。彼が持っているのは師の家を売った金とマクスウェルの姓、それから荷車。荷車には仕事道具や鉄が積まれている。
「ボウズ、本当にこんなところでいいのかい?」
「はい。ここなら音で迷惑を掛けることもあまりないかと思いますし、村で何か修理を頼まれてもすぐに依頼品を届けられます。」
ケイトでない方の男がケイトに問う。彼は村の人間。六十才くらいだろうか。村長をしている男である。そして、ケイトに問うた理由は土地にある。村からは歩いて十分ほど。畑は数十メートル先で途切れている。森は目と鼻の先。五分も歩かない距離にある。地面は手入れされておらず草が荒れ放題だ。ケイトはここに居を構えるつもりなのである。
「そうか。広さは?」
「えっと…、この、くらいですかね。」
荒れた土地に杭が打たれた。かなり広い。
「随分大きいな。」
「ええ。鍛冶場や物置も必要ですし、これから必要になるものも少なからずあると思うので。」
「じゃあ、土地代だな。…明日俺の家に来てくれ。金額を出しておく。」
「はい。」
土地購入の話は纏まったようで、村長は村へと帰っていく。
そしてケイトは、居を構える予定の土地を見て気合いを入れる。
「ケイト・マクスウェル第二幕、始まり始まり。」
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