鍛冶師ケイト・マクスウェル

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カァーン 今日も村には鉄を打つ音が響く。決して大きな音ではない。遠くから聞こえる固い物と固い物がぶつかる音だ。この音が村に響くようになって三年、いやもう少しで四年になる。最初は違和感を覚えていた村人たちだったが、今となっては至極当然の音。むしろ朝からこの音が響いていないと、村の外れに住む青年に何かあったのではと心配する。この音は村に一日の始まりを告げているのだ。始まりを告げるとは言うものの、この音は村民のほとんどが起床してから鳴り始める。農家の朝は早いのだ。 小一時間ほどすると、音が止んだ。農作業に精を出していた村民たちは訝しげな表情で音のしていた方を見る。いつもなら、一人前になるために修業中と言っている彼がこれほど早く朝の鍛冶を終えることは無い。少しすると、カランコロンと音をたて、肩に数本の鍬を担いだ青年が村の方へと歩いてきた。身長は190cmほどだろうか、筋肉もついており、かなり大柄な青年だ。村人たちは彼の姿を確認すると納得して、仕事へと戻っていく。 青年は村人たちに鍬を渡しながら歩く。のんびりと村の様子を見ながら歩く。 「ケイちゃんケイちゃん!」 「ん?おー、今日も元気だな。」 村の童たちが青年、ケイト・マクスウェルに群がる。袖を引く者。背中に張り付く者。首にぶら下がろうと懸命に飛び跳ねる者。様々だ。最後の飛び跳ねている者はもちろん届かない。なのでケイトが抱き上げる。そうすれば他の童がズルイズルイと喚きだす。 「ケイちゃん。はい、これ。」 そう言って、一人がケイトに籠を手渡す。この子供は他の童よりもいくらか大きい。と言っても十を超えて何年も経っていないほどの齢の女子である。
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