鍛冶師ケイト・マクスウェル

6/30

8733人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
玄関から入ると、まずはカウンターがある。カウンターは壁までは続いておらず、カウンターと壁の間から家の奥へと行けるようになっている。 ケイトは女性にカウンターで待っているように言うと、家の奥へと入っていった。女性が壁に寄りかかっていると、明らかに戸口から気配がする。こちらに聞こえないとでも思っているのか、会話まで聞こえてくる。そして彼女は決意するのだ。いつか元気な子供を産もうと。まずは相手を探さなくては。ちなみに婚期は逃している。 ふと彼女の目の端に鈍く光る何かが映った。カウンターに乗せられているそれ。近づいて手に取ってみる。重さが腕にくる。かなり丈夫そうなそれは、どうみても鍋。そして先日、自分の家の鍋を落として凹ませてしまったことを思い出す。どうも近所の金物屋の商品は壊れやすい気がする。そこで買った包丁なんて二月でダメになった。 「お待たせし…どうしました?」 「あ、あぁ、丈夫そうな鍋だと思ってな。」 布に包まれた剣と思しきものを持ってきたケイトは、鍋を手にとってまじまじと見つめる女性に声を掛ける。彼女は急に話しかけられて焦ったようだが、思ったことをそのまま口に出す。 「とりあえず、こっちいいですか?」 カウンターに荷が置かれ、ケイトは布を広げていく。鍋を元の場所に戻し、布の中を見る。そこには修理に出す前と変わらぬ鞘があった。 「かなり使い込んでいたようですね。あれほど刃毀れするまで使うとは、恐れ入りました。」 そう言ってケイトは鞘から剣を抜き放った。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8733人が本棚に入れています
本棚に追加