鍛冶師ケイト・マクスウェル

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「剣についてはこれでいいんだが…。」 少しばつの悪いような様子で鍋を見る女性。 「ああ、鍋が欲しいんでしたね。お売りいたしますよ。特に依頼ということでもなくて、自分で使おうと思って作っただけですから。」 「しかし、君の鍋がなくなってしまうのでは?」 「鍋ならありますよ。大きめの鍋が欲しくて作ったので。欲しいのでしたらお売りいたします。」 そう言いながら、カウンターの下から取りだした布で鍋を包むケイト。 「せっかくだ。鍋ももらうことにするよ。修理と鍋でおいくらだい?」 懐から財布を取りだした女性。現代日本で使われているような財布ではない。巾着のような形だ。こちらも随分と年季が入っている。 「そうですね、原価とか儲けとか諸々を考えると…。銀板三枚くらいですかね。」 「は?え、銀板三枚?」 通貨の感覚として、銀貨は千円ほど、銀板は一万円ほどと考えてほしい。その感覚から言って、金貨は十万、銅貨は十円、銅板は百円といったところだ。それより下は大小のサイズの銅銭を用いる。 「あぇ、高かったですか?」 発音がしにくい奇妙な声を上げて困った表情をするケイト。その態度に困ったのは女性の方だ。 「い、いや、違う。逆なんだ。安すぎるんだよ。王都では修理だけでも金貨は間違いなく取られる。鍛冶屋が多くないというのも理由だろう。」 「王都の相場は知りませんし、個人的には生活に支障が無ければいいので。師匠なんかお客さんに価格を決めさせていましたし。」 「すごい師匠だったんだな。それで生活が成り立つのか。」 感心したように頷いている女性。ケイトは久々に師の話を出来たためか嬉しそうだ。
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