鍛冶師ケイト・マクスウェル

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炭を砕き、その炭に人差し指を向ける。指先から男性の拳ほどの大きさの火の玉が飛び、炭に火を付け、それからふいごで温度を上げていく。鍛冶場も徐々に熱くなり、ケイトの額には汗が滲み始める。 火の色を見て判断し鉄を入れ、頃合いを見て打ち始める。聞き慣れた音がケイトの耳を刺激する。鉄と鉄がぶつかる音だ。真っ赤な鉄は叩かれる度に火花を散らしながら徐々に形を変える。少し形が変わればまた火に入れる。何度も繰り返しながら一つの作品を仕上げる。 しばらく一心に打ち続けると形が整う。一般的なショートソードである。その刀身を水に浸けると、水蒸気と共に音が出る。刃を持ち上げると、水が刃に添って滴り落ちる。反射する光は鈍い。 火の処理をし、ケイトは鍛冶場を出る。砥石を持って向かったのは別の作業場。出来たばかりのショートソードを持ち、砥石に合わせて研いでいく。同じ場所で研ぎ続けると砥石が一か所だけ磨り減ってしまうので全体的に使う。 ケイトの息が上がっている。刃を研ぐ際に呼吸を止めていることと、長時間の集中が原因であると考えられる。しかし、いつものことなのかケイトは一本の鉄の棒を剣へと変える作業を続ける。 ケイトが一息入れたのは夕刻。すでに日は半分以上地平線にその身を隠している。作業場から出てきたケイトの手にはボロ布に包まれたショートソード。あとは錆止めに油を塗り、柄、鍔、鞘を作って終わりだ。でもそれは明日。夕食を済ませたケイトにはもうあまり体力は残っていない。
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