鍛冶師ケイト・マクスウェル

12/30

8733人が本棚に入れています
本棚に追加
/107ページ
水がそれほど豊富ではないこの国。行水をする文化もあるが、毎日なんてのは当然無理な話。そのため貴族たちは香を焚き、体に匂いをつけている。一般家庭は香に金を出すくらいなら他のものに金を出す。ケイトも例外ではない。が、鍛冶場で汗を掻いた後もほったらかしはいやな様子。 王都に行けば公衆浴場があるだろうが、金が掛かる上に時間まで取られる。よってこの案は却下。自分ばかり村の井戸から水を汲み上げるのは申し訳ない。そこまで考えた後、森に入れば沢くらいあるかもしれないと思いついた。それからの行動が速かった。桶一つ引っ掴んで外へと出る。日が沈みきり、外は暗闇に染まっている。冷静な判断をすればこの時間から森に入るなんて暴挙には出ない。疲れたケイトはそんなことにも気付かない。 森の入口に立ったケイトは耳を澄ませる。水の音は聴こえない。仕方なしと歩を進める。そして彼は本気で後悔する。素直に寝ていれば良かったと。 指先に小さな火を出し、それを道に照らしながら歩く。水の音が耳に入ってからはその方向へと歩く。実際、沢を見つけるまではそれほど時間が掛からなかった。一時間ほどである。問題はそんなことではない。火に虫が寄ってくるのだ。鬱陶しいことこの上無い。そして、早く帰ろうと思い振り返ったケイトは重大な事に気付く。 帰り道がわからない。 由々しき事態である。 魔力の問題もある。それでも松明を使おうとしないのは、転んだ際森が火事になると大変だからという理由。指先から小さな火を出す程度なすぐに消せる。突然、頭を抱えるケイトの後ろから草木の擦れ合う音がした。振り返ると不自然に揺れる茂み。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8733人が本棚に入れています
本棚に追加