鍛冶師ケイト・マクスウェル

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息を飲むケイト。 「…野兎か。」 草を食んでいる野兎が茂みの中にいた。あまりケイトを警戒している様子はない。 「お前もこの沢に用事かい?」 体を引いて沢への道を開ける。道と言ってもそんなものが森の中にあるわけが無く、野兎が水を飲めるようにケイトが体をずらしただけのことだ。 野兎は警戒しつつもケイトから敵意を感じなかったためか、近づこうとしたのだが、ピクリと耳を立てると走り去ってしまった。次の瞬間、近くで何かが土を踏む音が聞こえた。殺気を感じ、ケイトの背筋が凍る。何を考えるでもなく、ケイトは横に跳んだ。着地が上手くいかず、地面で一回転して体制を整える。 ケイトがしゃがんでいた場所を過ぎて、沢まで突っ込んでいる獣が一頭。 「猪なんてこの森にいたのかよ…。」 ぬかるんだ地面に足を取られてまだ出てこられていない。ケイトはその間に踵を返し、桶を持って少し離れた場所の木に登る。かなり大きな木だ。下を見ると、先程の猪がいた。登ってこられるような高さでないことから安全だと判断したようで、顔に桶を被せてケイトの大きな体でも支えられる太い枝に体を横たえる。すぐに寝息をたて始めたケイト。相当疲れていたらしい。猪は諦めて帰っていった。 次第に小さな鼾を掻き始めたケイト。しかし、それを注意する者もいなければ笑う者もいない。虫の澄んだ鳴き声が意識しなくても耳に届く静かな夜だ。ケイトの眠りはより一層深いものになって行く。ケイトを見下ろすのは一羽の梟と幾千の星々だけだった。
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