鍛冶師ケイト・マクスウェル

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「ふぅ…。」 鍛冶場の中で息を吐いたケイト。うるさいのは帰った。自分の仕事はこの細剣、レイピアと呼ばれる剣を仕上げるだけだ。 レイピアのイメージは、球状の鍔に円錐の刀身という形で思い浮かぶと思う。フェンシングに使われている形状の剣だ。しかし、ケイトの作ろうとしているレイピアは違う。もう一種類のレイピア。刃を持つ細剣だ。といっても、もう一種類と言うのは正確な表現ではなく、今のレイピアの前身にあたるものだ。こちらは突くことを最大の目的とするものの、その刃で手傷を与えることが出来るようになっている。しかし、刀身が非常に細いため、へたに斬りつけたり突くのに失敗したりすると、刀身が曲がったり折れたりしてしまう。そして見た目以上に重たい。実は、かなり扱いが難しく、繊細な武器なのだ。 それでもケイトは、依頼された内容を守り、懸命に仕上げていく。ケイト自身もレイピアの扱いが難しいのは知っているが、リザイアの経験と技量を信じて一心に鉄を打つ。顔を何本もの汗の筋が伝い、零れ落ちる。金床の上では未だ赤く燃える鉄が形を少しずつ変えているが、完成にはもうしばらくかかりそうだ。 どれくらい時間が経ったかはわからない。日は随分と高く昇っている。レイピアは完成間近だ。細く美しい刀身。まだ赤い刀身を何度も調整し、仕上げる。水に突っ込むと飛沫と水蒸気が上がった。 「ひとまず…かな。」 誰に言うわけでもなく呟くケイト。やるべきことはまだまだたくさんある。が、それは置いておいて、まずは一息入れる。
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