鍛冶師ケイト・マクスウェル

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森の中を歩く一人の女性。鼻歌交じりに歩く様子から、機嫌がとても良いことがうかがえる。彼女、リザイアは農村地帯にある鍛冶屋に向けて歩を進めていた。今日は彼女の新しい剣が仕上がる約束の日。楽しみで楽しみで仕方が無いのだろう。 視界に鍛冶屋が入ると、無意識に足が速くなる。懐に財布が入っていることをもう一度歩きながら確認し、口元が緩み目尻が下がるのを実感しながら鍛冶屋を目指す。 「…通してほしいのだが。」 「駄目。」 しかし、彼女は鍛冶屋に入れなかった。戸口の前には女子が仁王立ちしており、通してくれないのである。 「私は彼に言われて今日ここまで来た。通してくれないのであれば、納得のいく理由を言ってくれ。」 無駄に口論するよりも、通してくれない理由を聞き出した方が早く解決すると判断したリザイアは、女子から話を聞こうとする。女子も何か思うところがあるらしく、口を動かす。 「あのね、ケイちゃんここ何日かずっとお仕事してて、昨日も夜遅くまで起きてたみたい。まだ寝てるんだ。凄く疲れてるみたい。寝かせてあげたいの。だから通してあげない。」 いつも遊んでくれるケイト。仕事だっていつもなら、たくさんの農具の修理を頼まれても、一日あれば皆直してしまった。そんなケイトが今回の依頼に数日かかっている。ケイトと遊ぼうとして家に押しかけても、鍛冶場に入っているか、難しい顔をして剣を眺めているかだった。毎日夜遅くまでケイトの家には明かりが付いており、朝も村の皆が起きるよりも先にケイトの家から何かしら音が聞こえてきたことから、先に起きていた事は確実だろう。
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