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カァーン
未だ音は止まず。彼女も足を止めない。まるで音に引き寄せられるかのように森の中を走る。たった一人の友が鍛冶師を志していたからか。それとも腕の中にある忌々しい包みが彼女を突き動かすのか。彼女にはわからない。
「…ハァ…ハァ。」
森を抜けた彼女の視界に入ってきたのは一軒の家。その少し向こうには村と思しき集落。鉄を打つ音は眼前にある家の離れから聞こえるようだ。急がなければ追手に見つかる。考えが彼女の頭を過り、また走る。
カァーン
家の前に着いた時、なぜ森の中でやり過ごさなかったのかと省みる。しかし、出て来てしまった以上戻るのは危険だ。戻っている途中に見つかれば逃げ場など無い。連れ戻されてしまう。意を決してドアノブに手を掛けた。鍵は掛かっていない。
「す、すみませーん…。」
中を覗くが誰もいない。鉄を打つ音は止まらない。彼女はこそこそと中に入り、隠れることが出来そうな場所を探す。追ってもまさか民家に勝手に入ってきたりはしないだろうと、安易な考えでの行動だ。
「…!……は…!」
「もう来た…!」
外から女性の高い声が聞こえる。彼女は慌ててカウンターの裏に回り、その下に身を隠した。カウンターの下には木箱が複数個転がっており、身を隠すことは難くない。端の方で木箱とカウンターの間に身を潜めていれば、見つかる可能性は低いだろう。人が来るとは思えないが、住民に見つかると厄介なので隠れる。
カァーン
鎚の音は未だ止まない。
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