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「あのねぇ、美琴」 「…はい…」 「それ、嘘だよ。 多分」 「えっ!?」 バッと、身体を離して俺を見上げる美琴。 ああ、離れちゃった、と、心の中でこっそりため息をついて、俺はベッドに座った。 「確かにね、なついてたお姉さんはいたよ。 近所に住んでた。 けど、あれはあの双子に意地悪されて泣いてる俺を庇ってくれるからで、そんな色っぽいもんじゃないって」 「…そ、そうなの…?」 「そりゃあ、優しくされるのが嬉しくて「結婚する」なんて言ってたこともあるけど。 小学1、2年生の頃の話だよ? そんなのを初恋にされちゃ堪んないよ」 「…えぇー…」 項垂れてよたよたと、ベッドに近付く美琴。 そして、俺の隣にちょこんと座る。 「…私、騙されてたの?」 「うん。 姉ちゃんたち、よっぽど美琴が気に入ったんだね」 「じゃあ私、何のために頑張ったの……」 「……あの二人の言うこと、鵜呑みにしちゃダメだよ。 ただ単に、からかって楽しんでるだけだから」 「……幽霊に追いかけられる夢まで見たのに……」 がくーっと頭を垂らす美琴を見て、思わず笑ってしまった。 そうやって周りに振り回されるのが俺たちのツボだなんて、本人は丸っきり判らないんだろうな。 「それよりも、美琴」 「なに?」 「今の状況の心配をした方がいいんじゃない?」 「? なにが?」 キョトンと、大きな瞳をこっちに向ける。 俺は、にっこりと笑ってみせた。 「俺の部屋では、“牧瀬”って呼ばない。 この約束、忘れたの?」
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