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「……なに、その反応は」 「え? …反応って…?」 「顔。 赤くなってる」 「えっ、う、嘘っ…!!」 バッと、勢いよく自分の頬に手を当てる美琴。 俺が思わずその両手を掴んで外すと、美琴の鞄がドサリと地面に落ちた。 「…もしかして、初恋のやつを思い出して赤くなってんの?」 「や、し、知らないよっ…」 「自分のことでしょ。 何が知らないだよ」 「…、だって、赤くなるなんて、思わないじゃない…!!」 「ねぇ、気になるんだけど。 誰のこと思って、そんな顔になっちゃってんのか」 「…そんな顔、って……」 美琴にとっても赤くなったのは予想外だったらしく、慌てふためいていた彼女は、しばらくすると諦めたように力を抜いた。 「……別に、普通だよ…? 幼稚園から、よくボール遊びをしてくれてた同い年の男の子で…」 「…ボール遊び?」 「うん。 その子のお父さんがバレーやってたの。 だからバレーボール持って、よく地区の体育館に遊びに連れてってもらってた」 「…へぇ」 要するに、美琴のバレー歴の原点になった相手か。 俺は掴んでいた美琴の手を解放して、落ちた鞄を拾い上げる。 「…確か、“たかしなきっぺい”くん、だったかな。 ガキ大将みたいな感じで、いつも先頭に立つような男の子だった」 「…それで、“きっぺいくん”は、今、まだ近所に住んでるの?」 鞄を払いながら、なるべく穏やかに聞いた。 美琴は、ふるふると頭を振る。 「…小学校の途中から転校しちゃったから、今はどこにいるのか、知らない。 …だけど、居なくなって、すごく寂しくて悲しかったから…。 …だから、あの時は分からなかったんだけど、今思えば、あれが初恋だったんだな、って」 「……」 「…その、私、今の今までそんな自覚はなくて…。 …“初恋”って考えてみて、…浮かんだのが“きっぺいくん”だったから、びっくりして…」 「だから、顔が赤くなった、って?」 「……多分」 「へー、なるほど」 棒読みで答える俺から鞄を受け取り、美琴は気まずそうに顔を上げた。
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