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「…聞いてきたのは牧瀬の方なのに…」 ぼそっと、美琴が呟いた。 それに対して、俺は首を傾げてニッコリと笑ってみせる。 「そうなんだけどね。 聞いたら聞いたで、何か面白くないよね」 「そんな滅茶苦茶な……」 困ったように眉を下げる美琴。 だって、こんな気持ちになるなんて思わなかったし。 そんな子供の頃の話に心がささくれるわけではないけど、…やっぱり、悔しいと言うか。 ちっちゃな美琴が初めて慕った男の子、それはつまり、美琴の男性に対するタイプの基準になるわけで。 刷り込みみたいに、潜在的にその男の子が染み付いてるんだと思うと、……うん。 なんで俺じゃないんだろう、って、馬鹿馬鹿しいことを思ってしまう。 「……」 じっ、と俺から目を離さないで、寒さに鼻を赤くする美琴。 …でも、まあ、いいか。 今、こうして、美琴が必死に目で追いかけてるのが、俺なら。 「…牧瀬」 「ん」 「…今、なに考えてるの…?」 「……。 男って、馬鹿だなって」 「は?」 黒目がちな瞳をくるん、と大きくさせた美琴の髪を、ゆるゆると撫でる。 「美琴が思ってる以上に、男って単純なんだよ」 「…意味が…」 「……まあ、振り回してる本人には分かんないかな」 「……?」 少し腰を屈めて、ハテナマークを浮かべてる美琴の耳に口を寄せる。 「美琴のせいでイライラもするけど、その美琴が、俺を気持ちよくもさせてるってこと」 「!!」 わざと含みのある言い方をすると、美琴は耳を押さえて、俺から勢いよく離れた。 案の定、顔は真っ赤。
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