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「そ、んなこと、言われても…」 困る、と続きそうな感じで、美琴は言葉を濁す。 まぁ、美琴が受け身だからって、気持ちを疑ったり、いちいち不安になることはないんだけど。 美琴は美琴なりに想ってくれていることを、態度や言葉で表してくれてるから。 けど、こうして気持ちだけじゃない関係を進めて行くなかで、 俺についてこようと必死になって、無理をさせていないかな、と。 男だから当然あるような、キスしたいとか体に触れたいって願望とか欲望が、いつの間にか美琴を置き去りにして暴走しないかと、…心配になったりする。 「ごめん、困らせたいわけじゃなかったんだけど」 「…牧瀬…」 「寒いから、もう行こうか。 美琴が家に入ったら、帰るよ」 「……」 いつもみたいにニッと笑ってみせて、美琴の髪を撫でる。 美琴は、なんだか熱をはらんだような目をして、だけど小さく頷いた。 「…送ってくれて、ありがとう。 ……気を付けて、帰ってね」 「ん。 おやすみ」 「……」 「美琴…?」 そのまま、くるりと後ろを向いて。 いつもみたいに、帰るのかと思っていたのに。 「……もうっ……」 「え、え?」 何故か怒ったように顔を上げた美琴は、いきなり俺の手を掴んで、ぐいぐいと引っ張って歩き出す。 半分腰が引けたようについていくと、そこは、外灯と外灯の間の、暗闇。 「ちょっ……、みこ――」 テンパる俺に向き直った美琴は、ぐ、と、俺のコートの胸ぐらを掴んだ。 顔は、まだしかめっ面。 その顔を見て、なんで?と、考える間もなく。 ちゅっ。 と、背伸びをした美琴の唇が、俺のそれに、一瞬だけ触れた。
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