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「………へ?」 我ながら、ものすごく腑抜けた声だったと思う。 だけどそれを聞いた美琴は何故か、次は焦ったように、 「…ま、まだ、ダメ…っ!??」 「…え? え?」 「えいっ」 と、今度は何やら勢いをつけて、唇を重ねる。 ちゅーーっ、と、触れるだけの長めのキス。 俺はというと、驚きのあまり目も閉じられなかった。 やがて、始まりと同じくらいの勢いをつけて顔を離した美琴は、目を潤ませながらもキッと強気な視線を向けた。 「これで…、判った…?」 「……え?」 「…わ、私だって、キスしたいとか、…思うしっ。 牧瀬ばっかりじゃ、ないんだから…っ」 「………」 「しかも、……あんな明るい場所でなんてキス出来るわけないじゃない!!」 「……」 捲し立てる美琴に、俺は呆けたまま。 そのまま美琴は逃げるように背を向けて、「おやすみ!」と叫びながら自宅の方に走って行った。 いつもみたいに玄関で俺を見送ることなく、バタン、と閉じられた扉を遠目に見ながら。 俺は、よたよたとガードレールに手をついた。 ……だって。 美琴から、ちゅっ、って……。 「……」 寒いのは苦手なはずなのに、吹く風の冷たさを全然感じない。 むしろ心地いい。 顔が熱くて堪んないから。 いや、耳まで。 観念したい。 ノックアウト。 ギブアップ。 どれも白旗をかざすには違いない。そんな心境。 明るい場所では出来ないって、暗闇だったらしてくれるってこと? いやいや、そういう意味じゃないだろ。 「…あー…」 ため息みたいな声が出た。 「……早くしたい」 …なんて嘆いてしまうあたり、 本当に、男ってバカだ。
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