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「牧瀬くん」
昼休み。
いつもみたいに屋上で昼食を済ませて教室に戻ると、不意に声をかけられた。
「なに、神宮さん」
目の前に来た彼女は、相変わらず凛として、俺を見上げた。
大人しめで、生徒会役員なんかもやってる真面目な女の子。
口数が少ないし、目立つタイプじゃないけど、清楚な美人だと、男子から密かに人気があるらしい。
2年になってから同じクラスになったものの、普段話しかけてくるような子じゃないから、なんだろうと首を傾げていると、
「図書委員だったよね、牧瀬くん。
このプリント、隣のクラスの図書委員に回してくれるかな」
「なに?」
「この前の委員会で決まった、図書室に入れる新しい参考書のおおまかな内容と、予算。
確認したら名前を記入して。
2年の図書委員全員に見せるようにって、生徒会長が」
「ああ、わかった。
わざわざありがとう」
ニコッと笑って受け取ると、彼女も無表情をほんの少し緩め、「お願いね」と、プリントを差し出した。
それを受け取りながら、くすっ、と笑ってしまう。
「……なに?」
「…いや。
隣のクラスの図書委員って、神宮だろ?
俺からじゃなくて、最初にアイツから回せばよかったのに」
「……まあ、そうなんだけど」
彼女は、どことなく面白くなさそうに、
「…アイツ、目立つから。
あんまり学校では接点持ちたくないのよね…」
「……目立つ、ね。
確かに」
「でしょう?
じゃ、そういうことで」
「了解」
くるりと長い髪を揺らし、踵を返した神宮さんは、あっ、と思い付いたように振り返った。
「そうそう。
この前の、水曜日ね」
「うん?」
「夜勤だったでしょ、牧瀬くんのお母さん。
お父さんたちに差し入れに用意してくれた手作りのアップルパイ、私たちも頂いたの。
おいしかったって、お礼言っておいてもらえる?」
「そう。
わかった、伝えるよ。
けどあんまりおだてると、毎週食べさせられる羽目になるからね」
「ふふっ。
じゃあ沢山おだてないと」
そう神宮さんは、綺麗な笑顔を浮かべて、席へ戻って行った。
神宮一華(じんぐういちか)
俺の母親が勤めてる病院の院長の娘さんだ。
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