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神宮が、キョトンと目を丸くする。 「……なに」 「…いや。 彼女いるのは知ってたけど…。 牧瀬のことだからもっと、こう…。 彼女くらい手のひらで転がしてるぜ、みたいな」 「なんだよ、それ」 「だって、今の言い方じゃ。 牧瀬が、彼女に振り回されてるみたいな感じ」 「……実際、そうだからね」 「……。 へぇ…」 腕を組んだ神宮が、興味深そうに俺を覗き込む。 「他校なんだろ? どんな子?」 「……なんで他校だって知ってんの」 「“牧瀬くんが違う学校の制服の女の子と歩いてた!”って、一時期噂になってたの知らないの? それから、牧瀬に彼女が出来た!って、泣いてた女の子たくさんいたのに」 「……。 知るかよ、そんなの」 「いいから。 どんな子?」 「可愛いよ、めちゃくちゃ」 「……」 間髪入れずにそう言った俺に、神宮はぱかっと口を開けたまま固まった。 「とりあえず、ちっちゃくて。 ずっと見てても飽きない」 「お前、それ……。 鑑賞動物じゃないんだから」 「……まあ、仔犬みたいな感じだけど」 鑑賞するだけじゃ済まないんだけどね、と、心の中で付け足す。 ついでに昨日の美琴からのキスまで思い出してしまって、――おいおい、と、自分を密かに宥めた。 そんな胸のうちを知るはずもない神宮は、何故かうんうん、と、同感したように深く頷く。 「あー、仔犬ねー。分かる気がするわ。 俺も昔ね、俺に必死になってついて回る子がいて。 なつかれてるっていうの? 俺の言うことひとつひとつに、顔赤くしたり青くしたりでさ。 可愛くて仕方なかった記憶あるわー」 ……。 どこか遠い目をして思い出を語る神宮に、あれ?、と、小さな違和感。 だけどすぐに、まさかな、と、無理矢理それを頭から追い出した。 神宮は再び俺を見やり、なにか企んでいるような顔でニヤッと笑う。
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