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美琴の頬に、ほわっと赤みが走る。 「…ちょっかいなんて、誰も出さないよ」 「俺がそうしたいだけだから、気にしないで」 「……」 くすぐったそうな顔をして、美琴は耳に髪をかけながら俯く。 …美琴って、鈍感だから。 “そういう目”を男から向けられてても、ピンと来ないんだろうけど。 ――『川崎って、実は結構人気あったりするんだよ』 美琴や舞ちゃんを通じて話すようになった海藤が、なに食わぬ顔でサラッと言ったことを思い出す。 『川崎、男に対しても割りとフランクじゃん? だから男バレの中でも、川崎のこと気にするヤツがちらほら……。 お前も付き合ってるからって、胡座をかいてもいられないな』 ちょうど涼子さんとのことが一段落した後に言われたんだっけ。 爽やかに笑いながら、ちゃっかり“不安にさせてたら持ってかれるぞ”って、俺が釘を刺されたんだ。 …まったく。 そんなこと、俺が一番よく分かってるって。 「……」 黙ったまま手を取って指を絡めると、美琴がパッと顔を上げた。 「もうすぐ、着くから」 「…あ、そっか」 「美琴」 「?」 「公園、寄って帰ろう。 寒いけど」 「……うん」 ふわっと、美琴が笑う。 うん。 可愛い。 やっぱ、好きだ。 だけど今日はなんとなく、その気持ちの中に別のものが混ざってる気がする。 焦りというか、嫌な予感というか。 その理由に見当はついていたけど――、 ただの気のせいだ、と、無理やり自分に言い聞かせた。
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