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シン、と冷えた体育館では、ただ立ち尽くしていると、足元からぶるっと震えが来ることが多い。
だけどそこで飛び回る人数の多さのせいか、その熱気のせいか、今日はこうして立っていても苦にならないな、と思った。
バッシュがよく磨かれた床を、キュキュッと高い音を立てながら動き回る。
ボールが跳ねた音。
そのボールを、打ち返す音。
……こうしてバレーを見るのは初めてだけど、それを纏う音からして、バスケとは違うんだな。
体育館全体を囲う、渡り廊下というか見学場所で柵に頬杖をつきながら、その風景を見下ろしていた。
日曜日。
「川崎さん、こうやって見るとちっちゃ!」
俺の隣で笑い声を上げたのは、何故か一緒について来た三原だ。
確かに、一般的にも小さめの美琴が、背の高い男子バレー部のメンバーの中に入ると、その小柄さが際立っている。
ストップウォッチとノートを手に、ちょこまかと動き回っている姿を見て、俺も思わず笑った。
ちょっと大きめのジャージ姿が、妙に可愛い。
「俺らがここにいること、気付いてんのかな?」
「いや、気付いてないんじゃない?
特に連絡してないし」
「そうなの? じゃ、声かけてみる?」
「いいよ」
「なんで。 ホントにマネージャー姿見に来ただけかよ」
「そうじゃなくて。
ずっと見られてたことに気付いて、焦る美琴の顔を見たいの」
「………鬼畜……」
「なんとでも」
頬杖をついたまましれっと答えていると、美琴に一人の男が近寄っていくのが見えた。
はにかんだように笑うそいつは、美琴に指をかざして、何やら話しかけている。
美琴は首を傾げながら、その指を確かめるように触って、それからテーピングを丁寧に巻き始めた。
「………」
あの男、目的が分かりやすすぎ。
……ていうか、近付きすぎだろ。
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