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それを見た海藤が派手に笑って。
それから、美琴と美琴にテーピングを巻かれてる男の方に歩いていく。
こっちを見て叫んだ美琴に、男はキョトンとしていて、――海藤が俺を指差しながら何か耳打ちしたようだった。
途端に、美琴の顔が赤くなり、男は気まずそうにこっちを窺う。
――『さっきから、川崎の彼氏が睨んでるよ』
とか、言ったんだろう。 ……多分。
気が利くというか、面白がってると言うか。
美琴がよく『海藤には敵わない』と言ってるのが、分かる気がする。
「牧瀬」
テーピングを巻き終えた男がすごすごと練習に戻るのを見届けてから、海藤はまた、俺を見上げて声をかける。
「うちのストップウォッチが、調子悪いんだ。
でも八代高校のバレー部のストップウォッチも、ひとつしかないらしくて。
バスケ部に予備があれば、貸してやって。
…うちのマネージャーに、取りに行かせるから」
そう言って、美琴の背中をドンと押した。
美琴は、訳が分からないといった表情。
……嘘つけ。
ストップウォッチくらい、わざわざバスケ部のを借りなくてもいいって、知ってるくせに。
「…いいよ。
今、降りるから。
マネージャーさん、階段の下で待っててくれる?」
「え? ……あ、はいっ!!」
思わず敬語で返事をして、美琴は慌てて走り出した。
「三原、ちょっと行ってくるわ」
「……お前、分かりやすいな」
そう苦笑いする三原を見て、さっきと違い、俺の顔は緩みっぱなしなんだろうと分かったけど。
…実際、嬉しいんだから仕方ない。
今度、海藤にからあげ奢ってやろう、なんて考えつつ階段を降りると、美琴が言われた通りにそこで待っていた。
「お疲れさま」
「……いつから来てたの?」
「ほんの30分くらい前からだよ」
「声、かけてくれれば良かったのに……」
「いつ気付くかなって、見てた」
「……」
悪びれなく笑う俺に、美琴はふてくされている。
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