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「…うん。 …俺の勝手な言い分だから、気にしないで」 「……でも…」 「いいから。 ……なんか、くすぐったいんだけど。こういうの」 「……牧瀬、なんで顔赤いの…?」 「……」 ……そりゃ、赤くもなるよ。 なんだか緩んでしまった空気を取り払うように、俺はコホンと咳払いをして、美琴から手を離す。 「…美琴には、敵わないな」 「え?」 「いや、なんでもない。 そろそろ戻ろうか、マネージャーさん」 「…あ、うん」 思い出したように美琴はストップウォッチを握り締め、部室から出た。 バレー部の掛け声とボールを打つ音が、誰もいない廊下に反響している。 一直線の廊下の先に体育館があるんだけど、その手前の右手側に、部活動のために用意された昇降口がある。 グラウンドから直接入ることが出来て、土日の部活のときはここを利用するのが普通だった。 「……あれ?」 普段なら、気付かずに通り過ぎただろうに。 休日専用の昇降口だから、行き来するのは大抵ジャージ姿の生徒だけだから。 だから、生真面目に休日にも制服を着てそこにいる人物が、目に留まった。 「…神宮さん?」 靴を揃えて来客用のスリッパを出していた神宮一華が、長い髪を耳にかけて驚いたように俺を見返した。 「牧瀬くん。 …あれ、なんで?」 「神宮さんこそ。 今日、日曜だよ」 「分かってるけど……。 休日に学校来るなんて初めてだから。 …なんだ、私服でも良かったの」 「何か用事?」 「生徒会室に資料を忘れてきて。 どうしても取りに行きたいって言ったら、バレー部の顧問の先生に鍵を渡しとくからって、生徒会長が。 牧瀬くんこそ、どうしたの?」 「俺は、バレー部の見学」 「…見学って、牧瀬くん、バスケ部だったんじゃ……。 ……あれ?」 神宮一華が、俺の陰になっていた美琴を見つけて、首を捻るような仕草をした。
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