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別に再会したからって、何があるわけではないけど。
でもやっぱり、“きっぺいくん”の話しをしていた美琴の紅く染まった様を思い出すと、心穏やかに再会を喜んであげられないわけで。
「……」
少し顔を上げて、目だけで下を見る。
遅れてきた神宮は、どうやらウォーミングアップを始めたらしく、体育館の横手で軽くランニングをしていた。
「ミィちゃん、ちょっと」
よく通る神宮の声が、美琴を呼んで。
美琴は戸惑いながらも、神宮に近付いて行った。
肩慣らしにパスの練習に付き合ってよ、と、楽しそうに言う神宮に向かい、美琴は膝を指差しながら何か言っている。
「……」
……断れよ。
なんて、器が小さいことを思ってしまって。
俺はまた、腕に顔を埋め、額をぐりぐりと擦り付けた。
……ていうか。
“ミィちゃん”て、なに。
「……撃沈しそう」
「え、なにって?」
「……。 なんでもない」
「仲良さげだね、あの二人。
神宮がやたらと絡んでるじゃん」
「……」
「幼馴染みの絆ってすげーのな。
久しぶりに会っても、ぎこちなくないし。
人によるかも知れないけど」
「……」
それは、俺だって思った。
最初こそ驚きで固まっていた二人だったけど、次の瞬間には、本当に自然に顔を綻ばせて。
確かに、この二人の間には俺には入り込めない歴史がある、――それを、まざまざと見せつけられた気がした。
………。
ああ、そっか。
意味不明な苛立ちの理由は、これだ。
俺の知らない美琴を、あいつは知ってる。 それが気に食わないんだ。
「……男って、ほんと馬鹿だ」
「へ? 馬鹿?」
「帰る」
「は!? ちょっ、待てよー」
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