満月の夜

6/6
前へ
/68ページ
次へ
手の中にいるのに、歯痒い。 何故、涙を湛えている? 何故、震えている? それでも、抱き留めている私を貴女は…。 「…すまない。」 「い…え………っ私も…。」 ぽとりと滴が零れた。 後ろ手で障子を開く。 強引に中へと引き入れる。 最後に、きらりと光るものを見た気がする。 輝く満月も 秋の夜長を飛び交う虫も 心地好くそよぐ風も。 今は只、貴女だけを…。 「今宵、貴女の全てを私に。」 【完】
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加