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「くだらないな」
「ああそうさ。くだらない、不毛な争いさ」
───だが、くだらない争いに興じるのも、悪くはない。
「決断を言う前に聞かせてほしい。なぜ、そんなことをしようとする? おまえは笑夏の許嫁であり、勝とうが負けようが、最終的には───」
「───これは、俺なりのけじめでもあるんだ」
「……けじめ?」
なぜ、けじめをつける必要があるんだ?
「だって、好きでもない相手と結婚させられるなんて、嫌に決まっているだろう? だったら、ここで勝って、笑夏ちゃんに心から好きになってもらいたいのさ。だからこそ、もし負けたら俺は、許嫁の立場を辞退し、カナダに戻るさ」
「カナダ?」
「そう、カナダ。俺は、10年ほどそっちにいたんだよ」
……成る程。だからあのとき、“帰ってきたよ”と言っていたのか。
「それで? 答えはイエスか、 ノーか?」
「───やってやる」
断る理由など無い。
そうか、そういうことだったのか。
僕が、彼女にまた笑ってほしかったのは。
この男が現れてから、ひどく怒り、呆れ、彼女を思うたびに苦しくなり、ツラくなり、もどかしくなったのは───。
────僕が、彼女に恋愛感情を抱いていたからなんだ。それも……幼いときから、ずっと。
「やってやるよ、そのギャンブル。僕の───最初で最後の、恋のギャンブルだ」
「……フッ、わかったよ。本番は、日曜日のお祭り前。14時に、大通りの室内水泳場へ来るんだ」
溝口はそう告げると、去っていった。
だが笑夏は、こちらを向いて動かない。
「心配でもしてるのか? 気にするな。笑夏は、お祭りだけを楽しみにしていればいい」
僕がそう告げると、彼女は溝口のあとを追っていった。
不毛で醜い、男同士のぶつかり合い。
僕にとっての最後のチャンスだ、逃したくはない。
だが、もし負ければ……。
しかし、覚悟はできている。
だから僕は、挑戦を受け入れたんだ。
「───必ず、勝つ……!」
拳を空へ突き出したのは、今日が初めてだった。
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