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「どうだ? 懐かしいだろ?」
真夏の暑苦しい光を浴びながらやって来た公園で、僕こと折井 春樹(オリイ ハルキ)は、後方をゆっくりと歩く少女に問うた。
しかし、彼女は反応を何ひとつ示さなかった。
そんな彼女の名は……陽ノ下 笑夏(ヒノモト エミカ)。他に有無を言わせない美少女。
「……覚えていないのか? 昔、あれほど遊んでいたというのに」
何を問うても、彼女は反応ひとつ見せやしない。
だが、あいにく僕は性悪でね。諦めるなんて選択肢は存在しないのさ。
「たとえば……そうだな。そこの滑り台で、逆走でどこまで行けるか。なんてこともやっていたな」
彼女との思い出を掘り返してゆく。
思い返せば、いまではまずやろうとしないことや、やってはいけないとわかりきっていることばかりをやり続けていたな。
「他には……そう、あの丘。この公園で遊ぶたびに、まずはそこで競走。誰が先にてっぺんまで行けるかを競っていたな」
熱心に昔話を話しても、彼女は変わらず無反応。
どうすれば、彼女が食いついてくるのだろうか。彼女に食わせる餌は、何がいいんだ?
とにかく考えてみるしかない。そうでなければ、道を切り開くことはできないんだ。
「…………どうしたんだ? 居なかった空白の間に、君に何があったんだ? 笑夏」
──だが、ダメだった。
核心を突いて事を問うこと以外に、僕に残された道はなかったようだ。
すると、いままでなにひとつ反応しなかった少女の眉が、ピクリと少し動いた。
「なぜ話さない? いや、話したくないの方が正しいのか。昔のような君に、戻ることは叶わないのか?」
「───あなたには、関係ない」
そして発せられた久々の言葉はとてつもなく辛辣で、僕の心に深く突き刺さった。
「……それもそうか。すまない、忘れてくれないか? デリカシーがなかったか」
とは言え、それは僕が思っていたことのあまのじゃくだった。
僕に知る権利はあるはずだ。
彼女の昔といまを知っているのだから。
しかしそれを、関係ないの一言で片付けられてしまうのは非常に悔しい。
なぜ、助けたいのにそれができないのか。
彼女へ、憤りすら感じられてしまう。
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