見切り発車のギャンブル

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「懐かしいだろ? そう、あのお店なんだよ」 外見はおろか、内装すら昔のまま。 彼女が忘れてさえいなければ、きっと懐かしく感じられるだろうな。 「……そう」 おっと、これは予想外。 反応なんか期待もせず、独り言のように言ってみたのだが。 彼女が、反応を示すとは。 覚えていたのか? 「春くんかい、久しぶりだねぇ。その子は?」 訊く間も無くおばちゃんがやってきて、かき氷を置いていく。僕の目の前には、ちゃんとブルーハワイが置かれる。 「笑夏だよ。覚えてない?」 「……え? あの笑ちゃんかい?」 「そう、あの笑ちゃん」 一瞬動きを止めたおばちゃん。 そうか、そりゃ驚くよな。 美人になってるし…………笑ってくれないから。 「ほぉ、美人になってぇ。都心の方に越したって聞いてたけど、戻ってきたのかい?」 「……はい」 そうか、どれだけ無口で無表情でも、最低限の応答はするんだな。 なんか悔しいな。 「なんだか、感じ変わっちゃったねぇ。もう、前みたいに春くんを引っ張っていってないのかい?」 「うん。むしろその逆だよ、いまじゃ」 まあ……半ば強制だと言われたら否めないんだがな。 「そうかい。でも、それが男の子ってもんだよ、春くん」 「わかってる」 僕は、かき氷を頬張っていく。 しかし彼女からその気配が感じられず、僕は促した。 「遠慮はしなくていいよ。食べな」 すると彼女は、ゆっくりとかき氷を口にし出した。 「でも、なんだか不思議だねぇ。しばらく見なくなっちまったツーショットを、こうやってまた目の当たりにできてるんだもんねぇ」 「しょうがないよ。笑夏がいなかったんだもん」 とは言え、確かにまだ、これが現実なのか疑いたい僕がいる。 人間の感覚と言うのは、実に不思議なものだ。 「あ、やべっ……」 ちょっと掻き込み過ぎたか。 頭が痛い。アイスクリーム頭痛ってやつだ。 「だらしないねぇ。こめかみを押さえな」 悶えていたら、おばちゃんに笑われた。  
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