8人が本棚に入れています
本棚に追加
「懐かしいだろ? そう、あのお店なんだよ」
外見はおろか、内装すら昔のまま。
彼女が忘れてさえいなければ、きっと懐かしく感じられるだろうな。
「……そう」
おっと、これは予想外。
反応なんか期待もせず、独り言のように言ってみたのだが。
彼女が、反応を示すとは。
覚えていたのか?
「春くんかい、久しぶりだねぇ。その子は?」
訊く間も無くおばちゃんがやってきて、かき氷を置いていく。僕の目の前には、ちゃんとブルーハワイが置かれる。
「笑夏だよ。覚えてない?」
「……え? あの笑ちゃんかい?」
「そう、あの笑ちゃん」
一瞬動きを止めたおばちゃん。
そうか、そりゃ驚くよな。
美人になってるし…………笑ってくれないから。
「ほぉ、美人になってぇ。都心の方に越したって聞いてたけど、戻ってきたのかい?」
「……はい」
そうか、どれだけ無口で無表情でも、最低限の応答はするんだな。
なんか悔しいな。
「なんだか、感じ変わっちゃったねぇ。もう、前みたいに春くんを引っ張っていってないのかい?」
「うん。むしろその逆だよ、いまじゃ」
まあ……半ば強制だと言われたら否めないんだがな。
「そうかい。でも、それが男の子ってもんだよ、春くん」
「わかってる」
僕は、かき氷を頬張っていく。
しかし彼女からその気配が感じられず、僕は促した。
「遠慮はしなくていいよ。食べな」
すると彼女は、ゆっくりとかき氷を口にし出した。
「でも、なんだか不思議だねぇ。しばらく見なくなっちまったツーショットを、こうやってまた目の当たりにできてるんだもんねぇ」
「しょうがないよ。笑夏がいなかったんだもん」
とは言え、確かにまだ、これが現実なのか疑いたい僕がいる。
人間の感覚と言うのは、実に不思議なものだ。
「あ、やべっ……」
ちょっと掻き込み過ぎたか。
頭が痛い。アイスクリーム頭痛ってやつだ。
「だらしないねぇ。こめかみを押さえな」
悶えていたら、おばちゃんに笑われた。
最初のコメントを投稿しよう!