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言われた通りにすると、だんだんと楽になってきた。
「助言ありがと、おばちゃん」
「まったく。気を付けなよ」
釘を刺された。
それに対し、苦笑いでうなずく僕。
こんな光景、昔の彼女なら、その明るい笑顔でけたけたと笑っていただろうな。
いまは、無心でかき氷を頬張っているけど。
「笑ちゃん、親御さんたちは元気かい?」
「……はい」
「そうかい。なら今度、宜しく言っといてね」
笑顔のおばちゃんに対し、ピクリとも動かない彼女の表情筋。
さすがのおばちゃんも、あまりの変貌に戸惑っているみたいだ。
「……ごちそうさま」
そんな様子のおばちゃんを気にもしない彼女は、平然とかき氷を平らげていた。
僕も急いで平らげ、お会計を済ませた。
「じゃあね二人とも。また来てね」
「うん。おばちゃんも、元気で」
彼女は相変わらず何も反応しない。
代わりにおばちゃんへ手を振っておき、散歩を続行。
陽は、だいぶ昇っていた。そろそろ帰った方がいいか。
「さて、時間も良さそうだ。帰ろう」
無口な彼女にそう伝え、僕たちは家へ向かっていった。
戻ってみると、笑夏の家の前に来客が。
遠目だから推測でしかないが、見た目は僕らの少し上くらいの男だ。
優等生宜しくメガネが目立ち、背はすらりと高い。
「誰かいるな。知り合いか?」
問うと、彼女は小さく首を振る。
誰かはわからないが、このままでは彼女が帰りにくそうだ。
注意でもしようかと思っていると、男はこちらに気づいたようだ。
笑顔を見せ、こちらに手を振ってくる。
だがあいにく、僕らは彼を知らない。
向こうだけに覚えがある。そんなところか。
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