相対

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相対

 上がった重戦闘機、轟電(ごうでん)は9機、編隊を組む余裕すらない。敵はもう目と鼻の先だ。  編隊長は思った。  『でかい、な、この距離だとはっきり見える。』  B29 は全長30メートル、全幅43メートルの巨人機だ。  翼の縦横比(アスペクトレシオ)が大きな、横幅のある姿だ、細長い主翼と相まって剥き出しの航空用アルミ合金(ジュラルミン)で、できた機体は陽光を反射して白く輝き、眼下に見える太平洋の青と美しい対比を見せていた。だが、この美しき白き十字架(B29)静謐(せいひつ)な外観とは裏腹に、凶悪な破壊力を持つ爆弾を内包しているのだ!  対して、轟電は全長12.5メートル、全幅11.5メートル。高速、高高度到達を、純粋に狙って設計された、細い胴体に、鋭い後退角の付いた小さめの主翼を持つ、矢のような形状だ。  低空侵入だったB29は九十九里浜で高度を1000mに上げてきていた。それでも都市爆撃に比べれば遥かに低い。  『しめた! B29は密集隊形だ。』ほくそ笑むのは編隊長。  巡航時の単縦から編隊をコンバットボックスに切り替えている。狭い攻撃目標に対しての対応だろう。無数の巨人機B29が作る中空の巨大な立方体。距離感が狂いそうになる。  奴らの物量(本気度)が恐ろしい。  しかしそれは轟電隊には何とも言えない朗報だ。  【タ弾(ただん)】が使える。  緊急要撃体制(スクランブル)であっても、整備を受けた轟電には、常にタ弾が胴体下に懸吊(つりさげ)されている。  どんなに()いても、重爆撃機にの迎撃に当たる轟電にはこの武装は欠かせない。  空軍区分では、重戦闘機と呼ばれる轟電は、海軍呼称の乙戦(おつせん)とほぼ同じ意味を持つ。つまりは火力と上昇力を重要視した対重爆用戦闘機(B29キラー)なのだ。  その上、タ弾運用を前提とするならば、実質、空対空攻撃機と言っても差し支え無い!  密集体形を組んだB29は、絨毯爆撃の効力を最大限に発揮しようと爆撃進路に乗った。  この場で敵を(ほふ)らなければ、基地の命運は無い……。  轟電隊は各個にB29編隊に正面対向で相まみえる!!!  高度は、こちらが上、上方800mだ。  護衛戦闘機(エスコート)の【P51Dムスタング】戦闘機が増槽(ぞうそう)を捨て急上昇してくる。  「雑魚にかまうな!」  「でかぶつだけを狙え!!」  編隊長は無線機の集音器(マイク)に怒鳴った。  
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