B29

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B29

 【B29超空の要塞(スーパーフォートレス)】は、時代にそぐわない超兵器(オーパーツ)だ。  高高度を快適に巡航できる、与圧操縦室(キャビン)。    電気演算機(コンピュータ)と連動して、遷移行動をとる標的機を、見越し射撃ができる動力銃座。  高度に関係なくエンジンの力を引き出す、排気タービン。  どんな速度でも爆弾可能な、精密爆撃照準器(ノルデン)。  銃撃を受けて火災が発生しても、即鎮火する自動消火装置。  搭載された最新技術を上げれば、枚挙にいとまがない。  それは、アメリカの卓越した工業力、基礎科学力の底力だ。後に人間を月に送った【NASA】(ナサ(航空宇宙局))の前身機関【NACA】 正式名、全米航空諮問委員会。それらの統括的な、航空機力学研究の賜物だ。  日本の至宝、零戦のように1人の才に頼るのではなく、米国は組織力で傑作機を生み出してくる。  B29の原動力、4基のライト製R-3350デュプレックスサイクロン複列18気筒空冷星型エンジンは、ジェネラルエレクトリック製の排気タービンを使い、全力負荷を課さない巡航時! で、1基当たり2000馬力余りを安定してプロペラに伝達していた。  日本ではドイツ、ユンカース製の航空用ディーゼルエンジンで使われていた、低温型排気タービンでさえ複製するのがやっとだった。  それに比して、米国はガソリンエンジンの高い排気温度でも、融解しない新素材のニッケル合金、インコネルXの開発に成功していた。  冶金(やきん)一つをとっても基礎技術力を米国は重要視してるのだ。  R-3350デュプレックスサイクロン、通称サイクロンエンジンはB29 成功の代名詞と言われるが、一方かなりデリケートな側面も持っていた。  腐食に弱い酸化しやすい欠点を分かった上で、マグネシウム合金を軽量化の為に多用したので、特に火災に弱かった。  そのために、逆説的に、日本機を苦しめる、自動消火装置が開発中に取り付けられたのだった。  欠点を克服する自由なアイデアに長けているのは、日本人からすると羨ましい、米国人の特性だった。  かくして、轟電(ごうでん)隊と邂逅(かいこう)するB29 の大編隊はアメリカ的総合科学力と工業生産力の権化であり、世界で初めて本格的な長距離高高度爆撃機として開発された、速度、高度、生存性そして爆弾搭載量の全てがバランスよく整った高アスペクトレシオの美しい機体だった。  そしてそれが、戦略爆撃と言う新しい教義(ドクトリン)を開拓する。    もしも、この機体(B29)が、平時の産物であったなら……。  従来の航空用兵術を変え、非人道的な都市部住宅地における焼夷弾爆撃で、女性や子供、老人を狙い、非戦闘員を皆殺しにする鬼畜な所業を、我が国の国力を削ぐという大概な大義名分で正当化することを目的として使われなければ……。  後の世には、ただ美しい機体としか記憶されなかっただろう。
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