刹那

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刹那

 その時、轟電(ごうでん)隊の下方から矢のようにB29編隊に一直線に向かう物体が!   突撃機【秋水(しゅうすい)(かい)】だ!   ロケットの強烈な加速力で一気に差を詰める、B29の腹をめがけて。  刹那6機の秋水改が次々と55mm噴進砲(ロケット弾)を放つ、そしてそのまま高空へ駆け抜けていく。一瞬の静寂の後、ぐらりとB29が傾き僚機に激突していく、スローモーションだ。もう一機、突如主翼が根元から折れキリモミに入るB29、一撃で3機のB29が葬り去られた。  そんな自分たちの戦果にも目もくれずに、秋水改は、高々と成層圏へ上がって行く。  『そうだ、それでいい。ロケット燃料が尽きたらお前らはただの滑空機…ムスタングのいいカモだ、やり過ごすんだ』轟電隊の編隊長は、秋水隊の身を案じた。  秋水で動力飛行は約3分30秒、秋水改で4分。  とてもじゃないが単機では使い物にならない、轟電とのコンビネーションで初めて戦術となる。  三尺秋水(さんじゃくしゅうすい)。  まさに居合がごとく。その一瞬の斬撃に賭けた日本刀のような機体、そして戦術である。  秋水改は水平尾翼のない無尾翼ロケット機だ。卵型の胴体に後退角のついた翼を持つ、コンパクトな機体である。そして秋水改の丸い胴体は、ほとんど推力剤タンクだ。酸化剤と燃料を容積ギリギリまで満載してあるのだ。  それでも特呂2型のロケットエンジンは、急激な化学反応で推進剤をあっという間に使い切る。  もともとの秋水は30ミリ機関砲を機首に積んでいたのだが、いかんせん動力飛行時間が短すぎる機体では射撃位置に着く時間など取れないのだ。  通常の内燃機関機のように、射撃位置について、そこから射撃など無理に決まっている。しかも、機関砲では有効弾を3~4発撃ち込まないとB29 には効果が無い。ロケット機の秋水では制限時間が短すぎる為、ちんたら射撃している暇はなかった。  帝国空軍は秋水を受領した後に翼下に10発のロケット弾を架装した。  これは技術貸与があったドイツのR4Mロケット弾とほぼ同じものである。  やはり、ロケット機にはロケット弾がよく似合っていた。R4Mの弾頭の4kgの炸薬ならば、一発でも当たればB29 も簡単に墜とせるのだ!  轟電隊も秋水隊の活躍に目を奪われたままではない。  正面対向戦で轟電9機はB29の上方から襲いかかる。  対抗する双方の相対速度は、およそ毎時1400km。  相対速度は感覚的に音速をはるかに超えている!   攻撃のチャンスは、ほんの一瞬だけだ。
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