ロックオン

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ロックオン

除夜の鐘が響き渡る正月、とある神社では人がごった返していた。 順番が回ってくるごとに賽銭箱に金を投げ入れ、手を合わせて願う。 そんな様子を1人の少年が屋根の上に座ってつまらなさそうに見ていた。 「ったく俺は万能の神様じゃねえからそんなに拝まれたって全部叶えてやれねぇっつの」 その呟きも姿も人には気づかれていない。ハゲの頭を叩いたりすることもやり放題である。 もちろん願いだって聞きたい放題、嫌でも聞こえてしまう。 生涯の伴侶が見つかりますようにー、だとか、どこどこの大学もしくは高校に合格しますようにー、だとか。 「本当に嘆かわしいねぇ。 昨今の若者は信仰心がまるで無い。 皆無だ。 それゆえ違う宗教の行事でも盛り上がる。 見ていて、気持ち悪いことこの上ないな」 何度目になるか分からない溜め息をつく。その隣で純和風の少女が足をパタパタさせながら話を聞いていた。 「良いじゃない。普段は寂しい山奥にこんなにも人が集まってるんだよ。 少しは無い力を振り絞って願いを叶えて上げようと尽力したら?」 見た目に反して口が悪い。 「うるさい。 誰のお蔭でのんびりした生活が送られていると思っていやがる。 座敷童のお前が人里から逃げてきたのを救ったのは他でもないこの俺だ」 座敷童はその身を煎じて飲むと百年は生きると云われ、江戸時代後期にはその血を引くとされるものは惨い殺され方をしたという。 「今や座敷童の数は減って、お前くらいじゃないのか? そのお前も俺に姿の消し方を教わらにゃあ、とっくに死んでたけどな」 頬を膨らまして不機嫌になる座敷童を見て、からかうのをやめる。 「止めろ。150歳を越えたババアがする仕草じゃない」 そうして再び人の様子を見始めた。 .
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