私は猫を拾った

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「行ってきまーす」 学校指定の鞄を肩に担ぎ玄関を出る少女。 ドアを閉めると同時に強めの風が吹く。 乱れた髪を直してハアッと溜息をつく。 そして、何もない空間で一人呟くように言う。 「ササラ、悪戯はやめて…」 『ふふ、ばれちゃいました?』 柔らかな声が聞こえると少女は目の前に現れたそれを見つめた。 少女こと普通の女子高生――林山咲奈は他人とは違う《妖精が見えるという力》を持っていた。 原に今も咲奈の目の前には半透明のササラと呼ばれる風の精がいる。 山奥の葉が生い茂った森林を連想させる深緑色の髪。 雲一つない晴れ渡る空を思い浮かべる空色の瞳。 コスプレかと思うほどのファンタジックな服装を清楚に着こなしている容姿。 一見すると確かに妖精っぽいが。 「妖精にしては大きいよね」 『余計なお世話ですよ!』 大きいというのは胸ではなく背のことをさしている。 そう、ササラは咲奈の頭二つ分大きい。 これは彼女が小さいわけではない。現に彼女の身長は167センチであり平均より少し大きいのである。 ちなみに胸は本当にまな板で、咲奈も貧乳だと自覚しているがもっとつるぺただな。とその部位を見つめながら考える。 『何か失礼なこと考えてませんか?』 眉を寄せて頬を膨らませるササラ。咲奈は苦笑をし、何でもないと応えた。 門を出て通学路を歩く。 ササラは少し体を浮かせて滑るように移動し咲奈について来る。 周りに人はたくさんいるのだがササラの存在に気づいている人はいない。 咲奈はそんな境遇にすっかり慣れ平然と登校していた。
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