愛を知るということ

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「ケリは自分でつけました。 あんたが怒るのは筋違いだ」 「お金返してもらってないんでしょ!?」 悟にとって親は目障りで、向こうもまた お金だけ振り込んで文化祭等には一切 顔を出さないと言う状況が何年も続き、 幼等部の頃は寂しかったが、この年に なればお金を振り込んでくれる事に対し 有り難みはなかった。しかし、 「別に……、いいじゃないの?どうせ」 「馬鹿言うなっちゃ!! 親の汗と涙、馬鹿にするな!!!!!」 悟が言い終わる前に遮った葉瑠は そう言いながらズカズカと悟に近づき、 「親も人の子だっち」 小さな目に涙をいっぱい溜めて優しい 口調で後ろから抱きついてきた。 こいつに何が分かると言うんだ。 手を振り払い、立ち上がって怒りを ぶつけた。 「お前なんかに何が分かるんだよ!!!? ざけんな!!貰った金をどう使おうが、 お前には関係ねぇだろ!!!」 それはただの八つ当たりだった。 目の前で呆気に取られている葉瑠は 勿論、ここに居る人は誰にも関係の話。 親、女、金、どれを取っても嫌な思い出 しかない。 何故、両親は来ないのか。もしかしたら 自分は捨てられたんじゃないのか。 そう悟った日から期待なんて踏みつけ 生きてきたのに、それが根を張り、 また息づく。 このままじゃ、駄目だ。 口が止まらない、何とかしたい。 言い終わると息は上がりうっすら汗を 滲ませ身体が熱いと感じる。 「帰る、退け」 「嫌だ」 「退けと言ってんのが聞こえねぇか!?」 「聞いとうけん嫌だ言ってるっちゃ!!」 怖くもない威勢なんて、ただの茶番だと 思ってきた、だけど、理由も分からない のに自らから視線を外してしまう。  気に入らねぇ……  何もかもを見透かした目付き、  きつくも優しい口調、  身に染みる声色、  何も知らねぇくせに…… 衝動にかられて振り上げられた手は 真っ直ぐに向けられる瞳を殴りつける 事はできない。行き場をなくした手は 拳に形を変え机に向かって落とされた。 「僕は神田さんの優しさを知ってます。 だから神田さんを退学にさせたくない。 詳細は把握できましたので、この件、 こちらで預からせてもらいます」 さっきまで震えていた者とは思えない くらい凛と立つ葉瑠。 「はっ、俺にすりゃ退学が本望だよ。 チビ助君」 彼は悟にとって最も苦手な何かを持って いる。それは目では見えないが確かに 感じる。
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