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でも、それを認めたくなくて、
鼻で笑い、屈んで目線を合わせ、
子供を扱うようにあしらってみたが、
葉瑠もまた一歩も引かない。
「なんとでも言ってください。
神田さんを退学にさせたくないのは
貴方の両親の願いであり、会長の頼み
なんです。それだけは忘れないで」
「成る程、だから執行部が動いたか…。
俺に構うなんざ、よっぽど生徒会長様も
暇なんだな。好きにしろよ、俺は帰る」
「分かりました。
では好きにさせていただきます」
「よろしく~」
ふざけた態度は強がって居る自分を
隠す為、人を馬鹿にするのは自分の事を
どうでもいいと思っているからこそ、
こんな下らない問題を解決させる時間を
費やさせない為。
「さて、どうしたものか……」
部屋を出たものの、皆が怯える顔が目の
前をちらつく。でもこれで悟の為に動く
気分にならないだろうと、苦笑しながら
部屋に帰り眠りについた。
コンコンッ……コンコンッ……
「葉瑠だっち、話があるけん開けて」
固い物を叩く音、そして呼び掛ける声で
悟は目覚め、ガチャッ…とゆっくりノブを
回すと空いた隙間から手と足が入り
込み、めいいっぱい戸が開けられた。
「何?」
「はい、これ」
差し出されたのは何も書かれていない
茶色い封筒。
中身を確認すると旗印の書かれた札が
10枚入っていた。
「お前って本当にお節介だな」
呆れ顔になる悟の反応を不思議に思った
葉瑠は少し悩んで笑顔を振り撒く。
「人の助け合いは、恩には恩を、仇には
仇を、詐欺には法を、武力には極道を!!
って親父がよく言ってたっち」
「いや、なんだろう……。色々と
おかしいような気がしたのは俺だけ?」
お金を数えて靴箱の上に置き、
「そんな事なかと。僕は家が家じゃけん、
神田さんがおかしいと言えばおかしいし
かもしれんけど、でも、僕にとっては
何ら不思議はなか」
「そっか……じゃーな」
戸を閉めようとノブに手を掛け、葉瑠に
別れを告げたつもりだったが、動こうと
しない。
「他、何か?」
俯き、親指を咥え、お腹を押さえると、
葉瑠のお腹はぐぅ~っと可愛らしく
鳴いた。
「はぁ~、何か食ってく?
レモンパイなら確か宏幸に貰った物が
手付かずで「食べる!!」
……。
「あっそ、じゃ勝手に入って勝手に
寛いで」
「分かった!!」
まさかこの俺が女以外を部屋に入れると
思ってはいなかった。だけど楽しそうに
笑いかけて後をついて来る葉瑠の仕草は
不覚にも可愛いと思ってしまう。
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