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それでも、男となんてあり得ないと
否定的に考えながら紅茶を入れようと
用意していると視界の隅に鞄が映る。
「ヤバッ、忘れてた……、
皿鞄の中だった……」
脳裏に甦った回想で壊れた音の正体が
康介から借りた皿だと気づき青ざめる。
後ろからは「あぁ~ぁ。」と葉瑠。
鞄の中は悲惨な事態だった。
教科書はベタベタ、散乱する破片、
真っ二つの皿、迂闊に手を突っ込んでは
危ないと、物を出し、シンク向かって
鞄を逆さにする。
パラパラと落ちた破片を片付けをして
一息つくと、再び葉瑠のお腹が鳴った。
「仕方ない、外の店に連れてってやる」
「その前にお皿買いにいかなきゃだ」
見事に割れてしまったお皿が眠る袋を
指差す。
「あれって……、アンティークか?」
「ロイヤルウースターだっち。」
「この辺り売ってる?」
「いや~ウースターはさすがになかよ。
何なら僕の部屋にあるの持ってく?」
ん……、考える素振りを見せた悟。
買えるに越した事はないが、
正直に謝ってからでも遅くはない。
「いらね、謝ればいいだろう」
「許してくれるっちか?」
「知らねぇ」
とか言いつつ、皿は後回しに葉瑠を
連れて遊びに行った。レモンパイを
ご馳走して、ゲーセンに行って、
知らずの内に悟の心は満たされ始めた。
ただ笑うだけで、ただそれだけなのに。
「遅くなっちまったな。」
「帝に怒られるっちゃ!!!!!!!」
外に出た時には既に真っ暗、月明かりの
綺麗な夜だった。
電話越しに怒られた葉瑠は、電話切ると
「アップルパイ売ってる店、未だ空いてるかな……?」と呟いた。
「もう無理だろうな。」
携帯の時計機能は22時22分を示して
おり、カフェやパン屋は閉まっている。
悟は宏幸に駄目元で電話してみた。
ただ一言、アップルパイは無いか?と。
電話越しでも分かるぐらいに不機嫌なり
トーンの下がった声色になったが、説明
すると自分の部屋に取りに来て欲しいと
の事。
「宏幸の部屋にアップルパイ取りに
行くか?」
「あるの!?なら行く!!」
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