愛を知るということ

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ペタンッ......ペタン...... テンポ良く紙に押さえつけられる判子を 持つ少年は、それから5度程繰り返し 手を止めた。 「はぁ……、気が散る……」 自分の目の前にはこれから起こりゆる イベントについての書類が山の様に 積まれてある。それを椅子に座り、 一枚一枚丁寧に見ては校章が堀込まれた 判子を押し、済みと書かれた段ボールに 入れる。 「むっちゃ、うめ~!!!」 目先を上げれば机に用意されていた アップルパイを頬張る双子の弟、 高等部3年喧嘩部部長、夏目帝の姿を 見ながら巨大なため息をついた。 その幸せな顔がやる気を削いでいる事に 早く気づいてくれと視線を送るが、帝の 目に写るのはアップルパイのみ。 「良かったのぅ……」 なんて心にもない事を言ってみたが、 出ていけと思っていても言えない自分は どこまで弟思いだと誇らしくもあり、 情けなくもあった。 一卵性双生児と言われる育ち方をして 生まれた割りには考え方も、好きな物も 違う。アップルパイよりレモンパイが 好きだからこそ勝手に食べられても気に しないのだが、そんな物、自分の部室で 食べろと言うのが本音である。 「葉瑠兄も食う?」 「気にせんでえぇきに食べんしゃい」 「うん!!」 葉瑠と帝は博多を仕切る夏目組の実子、 家の規律が厳しく、何処にでも付き人が ついて来る。 それを鬱陶しく感じた2人は完全寮制の 嵐山学園に入学し3年目を迎えた今、 成績と先生達の評価から葉瑠は生徒会 執行部部長と言う肩書きがついた。 「なぁ、これ誰が作ったと?」 「多分……、響さんやと思うよ」 「すげぇ!!!今度教えて貰おう!!」 毎日誰必ず差し入れをしてくれるから お菓子に困った事はなく、飲み物も 執行部の副部長を勤める響康介と 永峯柳斗が交代で用意してくれるし、 逃げない限りは優しい2人だ。 「どうせ作るならレモンパイ、 じゃなっくて、帝、はよう部室に 帰れっち。 戸島さん達に怒られるとよ?」 そうだ、ここに乗り込んでこられて、 口喧嘩でもされれば、困るのは自分。 っと気づいた葉瑠は自然にその言葉を だしたのだが、 「兄ちゃんと一緒にいる」 と笑顔で言われたら、それ以上 強く言えないのは惚れた弱味なのか。 「分かった、迎えが来るまでな」 なんて簡単に承諾してしまう。 後で後悔した日は少なくはないが、 帝の笑顔を見ると、自分はまだまだ 帝に執着しているなぁと実感させられ 思わずに苦笑。
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