愛を知るということ

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「ヒロちゃん達なら来んとよ」 パイが付いてしまった親指をペロリと 舐めて次のパイに手を伸ばした帝は 何食わぬ顔で告げた。 「どないして?」 「今頃、桜北の皇帝とお菓子食いながら 談笑しちょるはずやし」 ニコニコしなが食べる帝の後ろでは 焦りが込み上げ、脱力感に見回れるが、 このまま行かない方が問題なのだ。 「何でそれをはよう言わんのじゃ!!」 まだまだ終わりそうにもない書類を そのままに葉瑠は帝の手を引き部室を 出て喧嘩部部室まで走った。 自分達の仲間内で頂点に立つ御方を帝が 待たせているのは大問題。 「そげん急がんでも皇帝は逃げんっち!!」 「そげな話やなか!!」 バンッ 「来たな」 「遅く……なり……ました」 力任せに扉を開け、息を切らせながらも 何とか言葉を返すと立ち上がり葉瑠に 手を差し出してきた人物こそ、 桜北学園で皇帝と恐れられる鹿野智治。 高等部全域の運用を任せられた生徒会の 会長を勤めている彼は高等部2年。 先輩の立場である筈の葉瑠なのだが、 何故か彼を前にすると不馴れな敬語を 無意識に使ってしまうし、嵐山勤務の 先生達でさえも智治に対して敬語を 使っていた。 何がそうさせているのか、 葉瑠は知らない……。 「久しぶりだな」 「はい。ご無沙汰しております」 息を整え握手を交わし微笑むと 智治は一歩引き頭を下げた。 葉瑠はどうしたら良いか分からず、 頭を下げようとしたが、部室に居た 高等部3年喧嘩部副部長、神田悟が 葉瑠の背後に立つと背筋を拳で押し シャキッと立たせた。 「その節はうちの若い者が迷惑かけて 申し訳ない。話はうちの連中から 聞き出して謝罪しに来たんや」 「い、いえ、こちらこそ……、手加減が できなくて申し訳ありませんでした」 パッと離された手に、下げ時は今だと 葉瑠は頭を下げたのだが、帝は不服 だったらしく葉瑠のフードを後ろに 引き、腕に抱きついた。 「何で兄ちゃんが謝るん? 奇襲かけてきたあっちが悪かよ」 っと言ってはいるが、確かに奇襲を かけられた事には違いない。 しかも、こちらを年下と侮ってきたのも 相手が悪いとは思う。 だがしかし、自分達の禁語とするべき 単語の数々を耳にした途端、力の制御が 聞かず、少なくとも3ヶ月はベッド生活だろう。 それはまさにやりすぎと言うものだ。
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