一章 転機

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    「おーい」  教室。クラスメイトの会話に廊下の雑踏までもが混ざり、落ち着ける場所じゃない空間。  友人らは学校に久々に来たところで、「ひさしぶり」や「どうしたんだよ?」なんて気休め程度の言葉はかけないが、代わりに妹の情報を際限なく提供してくる。  短めの茶髪で普段からおちゃらけている楔恒樹は、主犯格。もうどうしようもない。だから呼び声にも答えてやらない。正しい判断だ。  ふと、物思いに顔を上げて周囲を見渡す風にして楔を視界から外してあげると、なぜかドア近くに居た女子と目が合った。 「……っ!!」 「あ……あー」  長い黒髪と、怯えたような瞳が印象的な──同学年で始めて見るお嬢様だった。目が合った気まずさからか、すぐに彼女は去ってしまったけれど。 「なぁなぁ楔、何か綺麗め居たよ」 「けっ。そうかよ」 「何で拗ねてるんだよもう……」  楔は遊んでやらなかったからか拗ねていた。これ以上は面倒になることを知っている最斗は、視線をさっきのお嬢様が居た場所に向けてみる。  別の集団がそこには居た。彼女が居ないことはわかっていても、何となく希望を持ってしまった自分にため息が漏れる。 「何、ため息ついてんだよ。幸せ逃げるぞ?」 「楔恒樹っていう、僕にとって不幸な塊だけには言われたくないけど」  と言うと、またも楔は拗ねた。面倒だ。  しかし、ため息で今朝を振り返り、藍那に半ば押されたような形で学校に来たのを思い出す。学校に来なければさっきのお嬢様との視線の交わりなんてものはなかった。楔との他愛ない会話すらも。  少なくともちゃんと久しぶりに来て、一つだけ理解できたことがあった。
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