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初夏を迎えるまでまだ月はあるというのに、じわりと汗が滲んだり、いきなり寒くなったりと、整然としない天候に身体の調子が狂いそうになる春先のこと。
引きこもりに関しては外の事情が通用しないみたいで、玄渦最斗(くろかさいと)は普段通りベッドに転がっていた。
髪型だけは環境の変化に感付いているのか、以前よりもボサボサと寝癖がやりたい放題になってたが。
「おーにーちゃーんっ!!」
「……んあ?」
階段を駆け上がるせわしない濁音が部屋まで響く。
ベッドから近付いてくる足音に合わせて扉へと視線を移すと、爆発的な濁音を発しながら制服姿の女の子が部屋に入ってきた。
天真爛漫なのはいいことだけど、もう少し淑女らしく振る舞えないものかなと、最斗は額に手を当てる。
「学校行くよお兄ちゃん。藍那も一緒にくっついていってあげるからっ!」
「いや、そのオプションはあまり魅力的じゃないよな」
「なんで!? 藍那はお兄ちゃんと一緒だと楽しいから魅力的だよ?」
「僕が、だ」
上体を起こして少女を眺める。
毎日朝を確認するための目覚まし代わり。無邪気でバカみたいに世話好きな妹の藍那(あいな)様の参上である。
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