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「……よし、ほら行ってこい。兄ちゃんはまた今度学校に行くことにするからさ」
腕の中から解放された藍那は、少し長くなった前髪を気にして、寂しそうにもう一度だけ言った。
「ほんとに行かないの?」
「……その代わり、またコスプレのアドバイスはしてやる」
「うーん……わかった。もうなに言ってもお兄ちゃん言うこと聞いてくれなそうだから行ってきますっ!」
軽く兄の腕に擦り寄ってから立ち上がると、藍那はまた奇妙な濁音と共に部屋を出ていった。
「行ってらっしゃい」
本当は可愛い妹を守るために登校は余儀なしといったところなのだが、彼は彼なりに予防線を張っている。
いつまでも兄の世話をさせていては、自分のことに手がつかなくなってしまうだろうからと、何となく妹の将来を考えているのだ。
高校一年生は一番不安な時期なのを最斗は知っている。最上級学年となった今、支えてやるべきはむしろこっちの方なのだから──と思いつつも、引きこもりの兄では言い分が立たないわけなんだが。
「ま、たまには普通に登校するのも悪くないのかもしれないけどな」
少しだけ藍那の様子も気になるし、と付け加えて。
新学期が始まってから三週間が過ぎようとしていた。その間、登校した回数は始業式含めて計四回。
二年まではちゃんと行っていたのが嘘に聞こえるぐらい、登校拒否のオンパレードとなったのである。
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