一章 転機

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    「流石にニートとなるにも、基礎知識ぐらいは頭に詰め込んでおかないと、また秀才な藍那様に叩かれるのが落ちだろうし」  たった三週間、春休みが休日登校を加えて延長した程度のような引きこもり初心者では、以前のような生活への更生は容易いようだ。  十分休めただろう。  最斗を苛めの対象にするような輩はまず居ないし、友達がいなくて一人ぼっちというわけでもない──面倒だから登校拒否していただけだし、人に合わせるのがちょっと疲れただけだった。  結局は藍那が大袈裟に騒ぎ立てていただけ。他には何もないのである。  ちょうど答えが出たところでベッドから立ち上がり、最斗は目に付かないように部屋の隅に設置したクローゼットから制服を取り出す。  先週一度だけ学校に顔を出しただけだから、クリーニングに出してからまだ日も経っていないようなスラックスの織り目が兄として何とも言えない不甲斐なさを感じさせた。 「まっ、飽きたら引きこもればいいんだし、今は行っとくか」  最斗は小さく頷き、制服を広げた。  三週間の延長後、長かった最斗だけの春休みはこれにて一時終末を迎えた。
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