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『あの山を越えたら…幸せになれる?』
君はいつも言っていたね
城下町の一角
見た目だけは華やかな『花街』で
家が貧しくて
子供の頃に売られてきた俺たちは
いつも肩を寄せあって生きてきた
強要される行為
その為だけに作り替えられた身体
毎晩、泣きながら身体を拭く君は
身も心も…段々壊れていった
敷地の隅っこにある小さな離れ
時折…咳き込んでは
血を吐くようになった君は
ここに閉じ込められていて
だから、俺は毎日ここへ通う
『ねぇ…あの山を越えたいな…連れてって?』
『うん。いつか一緒に行こう。だから早く身体を治して…』
やつれた君の
儚く微笑んだ顔は美しくて
……でも
綺麗な蝶に姿を変えた君は
俺を置き去りにしたまま
あの山を越えていく
『待って!!一緒に連れてってよ!!』
花街を脱け出し
裸足のまま走る慣れない山道
追いかけてくる男衆
肉薄してきた白刃に背中から貫かれ
草むらに倒れこむ
生きていく力が
身体から止めどなく流れ出して
でも行かなくちゃ…
あの山を越えなくちゃ…
でも…身体が動かない
そんな俺の前に舞い降りてきた
美しい蝶に
力をふりしぼり…手を伸ばす
『一緒に行こう』
その日
ニ頭の美しい蝶が
仲良く…あの山を越えていった
…こんな夢をみたよ
もしかしたら…昔の俺たち?
END
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