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睡魔が尻尾を巻いて遠退いてく。逃がした悔しさか騒音のせいか、舌を打つ音がした。 睡魔を連れ戻すのは容易いこと。だが、一度耳障りな音を取り込んでしまった頭から、騒音を掻き消すことは容易く無かった。加えて騒音が止む気配も無い。睡魔も尻尾を震わせて怯えている。カスミは騒音を止める方法を身を持って知っていた。ただ一つ。ユキがそれをさせてはくれない。 カスミの右隣に大の字で寝ている原田。右手を可能な限り伸ばせば、原田の左肩に僅かだが触れることが出来た。初めは軽く、力を増して強く。叩いても突っついてもいびきは止まらない。もっと衝撃を与えなければならないようだ。 それならば一度と身を起こし、叩くでもすればいいのだが。如何せん、左腕はユキの枕と化している。カスミとしては嬉しいことであり、騒音の中気持ちよさそうに眠れるものだと感心もしている。つまり。腕からユキを下ろしたくない、動かしたことによってユキを起こしたくない、と言う過保護な気持ちから、身を起こすことは出来なかった。 昼寝を諦める。その選択肢はカスミには無かった。一度ならず二度も原田によって邪魔をされた腹立たしい気持ちもある。また、何としてでもこの騒音を止めたいと言う意地も出始めていた。 結果。手が駄目なら足。しかし、足を伸ばすにしても届く距離は多寡が知れている。着物の裾が邪魔をしているのだから仕方がないのだ。 そうなれば手段は一つ。体を動かすしかない。勿論左腕をその場から動かさずに。お尻を軸に下半身を斜めへ、時折原田に触れれるか確かめ、ユキが起きないか確かめ。距離を縮めていった。
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